沖縄美ら海水族館(沖縄県国頭郡本部町)が日本で初めて「ナンヨウツバメウオ」の繁殖に成功し、「サンゴ礁への旅 個水槽」にて稚魚の展示を2025年12月より開始しました。展示されている稚魚は約6cmの個体が2匹で、生き物の状況により展示終了の可能性もあります。

ナンヨウツバメウオは学名Platax orbicularis、英名Orbicular batfishで日本では岩手県から沖縄県に分布し、成魚は全長約50cmになります。稚魚は茶褐色で枯れ葉のような形をしており、漁港や河川の汽水域近くの水面を漂っています。成魚は銀色味を帯び、サンゴ礁域で群れを作り遊泳します。

今回の繁殖は2013年から2016年に沖縄島北部から搬入された3匹の親魚が元で、2025年9月14日に雄2匹が雌1匹を追尾する行動が観察されました。9月18日には直径約1.3mmの受精卵が回収され、同日夜に孵化。受精卵は水槽内の塩分32psuで静置しても水面に浮かばず底に沈む特性があります。

孵化した仔魚は体の前半が丸みを帯び、孵化後約2週間は水底付近を遊泳しましたが、その後2日ほどで体高が急増し、特有の枯れ葉状の稚魚期の形態に変化。遊泳場所も水面付近へ移る様子が観察されました。

この繁殖成功によりナンヨウツバメウオは仔魚期から稚魚期へ短期間に形態と遊泳方法が大きく変わることが明らかとなり、特異な色彩や形態の理解が深まるとともに、海産魚類の初期生活史や擬態行動の研究にも貢献が期待されています。
沖縄美ら海水族館はこのような生物の繁殖研究を通じて展示生物への理解と保全活動に役立てるとしています。館は沖縄の豊かな生物多様性を再現し、希少生物の保全や繁殖研究に注力しつつ、質の高い教育機会を提供しています。
ナンヨウツバメウオの稚魚が枯れ葉そっくりの形態に変わる様子は非常にユニークで、自然の巧妙な擬態がまざまざと感じられます。水底から水面に遊泳場が移る成長過程も生態の変化を実感させ、展示を通して海の生きものの多様な生活史を身近に学べる良い機会です。こうした繁殖成功は希少種の保護にもつながり、研究と教育の双方に価値が高いと言えます。